スコットランドの山を歩く

あざみ ヘザー バグパイプ

浦川明彦
2001.11.15


2001年の夏、スコットランドの山を歩いた。灼熱の日本から冷涼のスコットランドへ。
18時間の飛行ののちロンドンへ。さらに2時間の飛行でスコットランドの中心エジンバラへと丸1日の移動ののちスコットランドの地に降り立つ。スコットランドの地を2週間余にわたり旅し、6つの山に登った。日本の山歩きとはいくつかの点で違っているという感じた。そのいくつかを、述べてみる。

1、気候と地形
 スコットランドは、日本に比べ、緯度が高い。たとえば、今回登ったケルンゴルム(Carn Gorm)山脈の場合、北緯45度で、これは東京が北緯35度、北海道が北緯40度であるのに比べても、相当な差で,樺太北部に相当する。したがって、相当寒冷な緯度なのだが、北大西洋のメキシコ湾流の影響で、緯度の割には温暖である。
広い谷(BenLawaers) カール(Loch Nagar) 平らな山頂(BenMacdui) 氷河期には、完全に氷河に覆われたようで、山頂部は削られて平らになり、カールなどの氷食地形も残っている。降水量が少ないせいか、日本のように河川による侵食が進んでいないために、日本の山とは異なった地形である。すなわち、山頂部は平らで、緩やかな丘状の地形であるが、ところどころにカールの急な壁がある。
山の標高自体は最高でも1355mと低いが、寒冷なため植生は、日本の高山の同じような状態である。すなわち、おおそ標高1000mを越えると植物はなくなり、岩と石の世界になる。およそ標高500m以上では、樹木も少なく、草原の状態で、羊の放牧に使われている。それ以下には、針葉樹を中心に林もある。

2.Munro List
スコットランドの山歩きにMUNROの名は欠かすことができない.スコットランドの3000フィート(910m)以上の山のリストで、はじめて作成したMunro男爵の名に由来しているそうだ。スコットランド山岳会でリストの管理をしている.COLLINSから35万分の1のMUNRO MAPが出ている。284座の山頂が登録されている。「日本百名山登頂」のように,Munro-baggingというイギリスのヒルウォーカーたちの目標ともなっている。

3.地図と道標
 スコットランド(イギリス)の地形図は、Ordance Survey(OS)が発行している。Ordnance Survey - Britain's national mapping agency とあるから、日本の国土地理院のようなところだろう。その、Ordance Surveyの地形図を求めると、いくつかの種類がある。Outdoor Leisureというシリーズ(二万五千分の一88cm×112cm両面印刷)EXPLORERというシリーズ(二万五千分の一88cm×112cm両面印刷)Landrangerというシリーズ(五万分の一80cm×80cm)であり、前の二者は限られた地域について発行されている(集成図のような感じの地図)。この地図は多色刷りで美しい地図なのだが、登山活動に使うには、なかなか曲者であった。

BenMacduiの地図(OS) BenLawaersの地図(Harvey)  路(PATH)は細い黒の破線で記述され、他の実線や色のついた線に比べ、見にくい。また、constituency(選挙区?)の境界線も、似たような破線である。さらに、岩がごろごろした地形になると、pathは消えてしまう。(忠実だといえばその通りだが)だから、この地図を使うには、日本の登山地図とは全然異なった「癖」を知っていないとまずい。

 他に、HARVEYから出ているSUPERWALKERというシリーズの地図はすっきりして分かりやすい。日本の地図を見ている人間にとって、OSのものより数段使いやすい。BEN LAWERS(£7.95)を入手したが、他の地域も発行されているようだ。(www.harveymaps.co.uk)
 さて、道標についてだが、山の中には、ほとんど0といっていいほど『道標』はない。6つの山に登ったが、例外的にあるだけだ。麓のナショナルトラストが管理している土地、ベンネビスのような人のたくさん入る山(それでも、二ヵ所だけ)、など、見た道標の数は、全部で10にも満たなかった。また、岩場でのペンキの印なども皆無だ。山頂にも立て札などというものはない。どこも同じように、三角点の標識と思われる円筒と、方向表示板(これにかろうじてその山の名前が書かれている)だけ。「こちらは○○方面」などは全くない。イギリス人らしい、徹底振りだ。「迷子になるのも自己責任」な 道標(BenNavis) のだろうか。
 その上、地形は先に述べたように、山頂部は削られて、広い、平らな地形である。これで天気でも悪くガスが出たら、全く方向を失う。そのため、地図とコンパスは必携である。

4.資料
 登山事情についての日本語の資料の少なさは、驚くほどだ。書籍をさがしたが、ほとんどない。平凡社ライブラリーの辻村伊助著『ハイランド』は貴重な1冊である。が、なにぶん古い。1914年、今から80年以上も前の本である。辻村は、その直後、帰国し、関東大震災の際に、箱根湯本で山崩れに呑まれ命を絶っている。今回の旅は、80余年前の、辻村の跡を追っての旅であった。所々に、辻村が書き残したものが見出された。
 当地では、資料は、たくさんある。書店に行けば、地図もあるしガイドブックもある。今回は、弟が入手し、送ってくれた「SCOTLAND'S 100 BEST WALKS」を半年にわたり、折に触れて読み、コース選定の参考にした。
 また、the Internetも便利に使った。とくに、スコットランド山岳会のwebサイトは、参考になった。問合せのメールにも答えていただき、つくづく便利な道具だと思った。Scotish Mountaineering Club(http://www.smc.org.uk/)
 現地に行けば、書籍、地図、ガイドブックなど数多く出ている。その中で使い勝手が良かったものが「THE MUNRO ALMANAC」である。重厚なイギリスの本の中では、新書本の大きさでコンパクトに必要な情報が載っている。携帯に苦にならない。

5.行程
 今回のスコットランドの旅の行程は、次のようであった。
Edinburgh---Braemar---Aviemore---Inverness---Fort William---Killin---Drymen---Glasgow---London

6.交通機関 今回のスコットランド旅行は、バス、鉄道の公共交通機関を利用した。しかし、山歩きの目的では、この選択はあまり賢くなかったようだ。道路はよく整備されており、また、人口密度が低いところでは、交通機関の便は悪い。特に、登山口へのアプローチは、交通機関もなく、タクシーさえないところもあった。こういうところは、マウンテンバイクを借りて、サイクリングでアプローチを辿った。また、町から町への移動もたっぷり時間がかかった。車であれば、途中で小さな山に登って・・などの「寄り道」も出来ただろうが、それもむづかしかった。スコットランドの山旅は、レンタカーで行くのがお勧めである。

参考文献
世界の山やま(ヨーロッパ・アメリカ・両極編):「地理」増刊,1995.10.2,古今書店
ハイランド:辻村伊助、平凡社ライブラリー262、1992、ISBN4-582-76262-X
SCOTLAND'S 100 BEST WALKS:CAMERON MCNEISH,LOMOND BOOKS,EDINBURGH,1999,ISBN0-9477842-66-4
THE MUNRO ALMANAC:CAMERON MCNEISH,Neil Wilson Publishing Ltd,GRASGOW,2000,ISBN1-897784-77-5
MUNRO MAP:COLLINS ISBN0-00-448695-1

参考URL
スコットランド山岳会 http://www.smc.org.uk/
HARVEY:http://www.harveymaps.co.uk/

登山記録へのリンク

ベンマクドゥイ(Ben Macdui)に登る
ロッホナガール(Loch Nagar)に登る
ケルンゴルム(Carn Gorm)に登る
ベンネヴィス(Ben Navis)に登る
ベンロワーズ(Ben Lawers)に登る
ベンローモンド(Ben Lomond)に登る
スコットランドの山に登る

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