ケブネカイセに登る

 ケブネカイセは、アビスコ国立公園にある、スウェーデンの最高峰である。

アビスコをあとにして向かった町、キルナ(Kiruna)はスウェーデンの北部、北緯68度にあり、鉄鉱石の産地として有名である。鉄道の駅に下り、便利が良さそうなのですぐ隣のホテルに宿を取る。それから町の中心のツーリストオフィスに行き、情報を集める。ニカロクタ(Nikkluokta)までのバスは1日2便、昼の11:35とあとは夕方の便。タクシーなら600クローナだそうだ。夕方まで町の見物をし、夕食を取りに駅のすぐそばのRallarenというホテルレストランに入ってみると、なんと日本人女性がカウンター内にいる。結婚してこちらにお住まいだとか。久しぶりに日本語を話し、トナカイの肉のパスタを食べる。あっさりとしたおいしい肉だ。

キルナ駅 ニカロクタのゲート


 翌日、不要な荷物は宿に預けて、荷物が半分くらいになり、移動は楽だ。町で昼食など買った後バスターミナルからバスに乗る。運転手は女性だ。日本ではあまり見かけない光景。
 12:35ニカロクタ着。レストランや売店、シャワー、ロッジなどがあり、駐車場には車がたくさん止まっている。準備をすませて出発。親子連れやグループなどでにぎやかな出発。少し行くと、木の柱を組んだゲートがあり、KEBNEKAISEと書かれた板がある。なおこの地名は、現地では、「チェブネカイセ」のように読むようだが、ここでは、ケブネカイセと書く。ここから、木のチップを敷き詰めた気持ちのよい道がしばらく続く。左右に氷河の貫通谷を見ながら林の中を進む。しばらくして、木のチップがとぎれ、ゆっくりした坂を上り詰めると、前方にケブネカイセが見えている。山頂部は雲の中だが、特徴のある左側の2つのピークが見えている。

船着き場

 少し進むと、ボート乗り場に着く。40分後に船が出るということで、時間の節約にはならないが、氷河湖の上の船便を経験してみるかと、乗ることにする。往復で200SEK。待つ間に、売店で「ランブルカレ」という、ハンバーガーのようなものを食べる。乗客が多いので、2艘の船に分かれて出発。氷河湖の上を両側と前方の山々を見ながら進んでゆく。広々とした水面がやがて細くなって水路のようになって行く。40分くらいでボート乗り場に着く。ここから8kmでロッジという標識。よく踏まれた平らな道を歩く。

2時間弱でロッジ(KEBNEKAISE FJALLSTASION)に到着。何棟かの建物がある。受付に行くと、混んでいるらしく個室はもとより、ベッドも空いていないらしい。夜9時過ぎにサウナのレストルームに来るように指示される。2食付き2泊で930SEK(日本のユースホステル会員証の提示で割引されている)。7時半頃に夕食にする。夕食はブッフェスタイルで、自分で好きなものを好きなだけ食べるようになっている。今日は鮭とゆでたジャガイモその他にパン、スープ、サラダ、コーヒー、デザートなどがずらっと置かれている。
 9時になったので、指定された場所に行ってみると、サウナの時間が終わり、休憩室、シャワー室にマットを並べて敷いている。その1枚の上に寝袋をおき、なる場所を確保。日本の山小屋と違い、「1畳に3人」などということはない。10時になっても外は暗くない。シャワーを浴びて、外で景色を眺めながらワインを飲んでいたら、日本人の男性が声をかけてきた。今日はツアーで山頂まで行ったとのこと。天気はあまりよくなかったらしい。11時になり「夕焼け」を見て、眠る。

東コースと西コースの分岐
右の斜面を登る


 翌朝、6時に起きて支度。いらない物を置いていく。7時に朝食になる。パン、ハム、チーズ、野菜、その他シリアル、飲み物等が並んだテーブルから取って食べる。ランチパックを頼むと、飲み物やお菓子が入った袋に、自分でサンドイッチを作って入れていくシステム。

 7:40に出発。今日は山頂まで、標高差1400m、途中登り返し200mの1600m分を登って下りてくる行程。天気は快晴。10分歩くと、クングスレーデンへの分かれ道。なお30分行くと、西(Vest)の道と東(Ost)の道の分岐点。東の道は、氷河を歩き、崖を登っていく道で、ガイドツアーが使っている。西の道は、氷河はないが、登り返しがある。今回は、単独行で山頂まで行く、ということにして、西の道を進む。平らな谷底の道から、カールから流れる川に沿って急坂を登る道に変わる。1時間ほどでカールの底に出る。一休みした後、また急坂を登る。ガラガラの石だらけの道だが部分的に岩の上を通過する。右側には直登する雪渓が見え、滑って下りたとレースもついている。トルバゴルニ(Toulpagorni 1662m)の尖ったピークと、ビエランバリの丸いピークの鞍部にでる。ここから、ジグザグの急登。グループや親子連れ、単独行などの登山者が,休み休み登っている。ビエランバリ(Vierramvare 1711m)の頂上は、広くて平ら。ここに来ると、雪で真っ白なケブネカイセの山頂が見えてくる。おびただしい数のケルンが積まれている。

 ここから、200mの下り。せっかく見えてきた山頂があっという間に見えなくなる。鞍部は、貫通谷の谷底で平らだ。谷底のカフェダレン(Kaffedalen 1520m)まで降りて、またジグザグの道を登り返す。真後ろに今降りてきた斜面が見えているつらい登りだ。ジグザグの道が右方向に進み始めると、傾斜がゆるくなっていき、小さな小屋に着く。ここから10分ほどトラバースするともう一つの小屋につく。ここが、氷河を登ってきた東コースとの合流地点のようだ。小屋の標高は1900m。緩やかな斜面を北に進んでいくと、雪が増えてくる。2000mを超えると、白い雪の山頂が見えてくる。残雪がますます増えるゆるい斜面を進むと雪に覆われた山頂の真下に出る。ちょうど、ヘリコプターが離陸するところであった。

山頂 北方を望む 山頂にて
山頂から下る 遠くにニカロクタが見える

 山頂までは高さ50mの雪の斜面を登ることになる。傾斜は結構ある。ちょうど人が切れて、山頂に二人だけになったので、一気に登る。13:10山頂に着くと、その向こう側は、細いリッジの先に、北峰が見え、左右は数百m以上も切れ落ちている。こちら側とはまったく違う世界だ。山頂は、細く狭い雪の上で、構造物は何もない。周りを見渡せば、雪の白と岩の黒の氷河地形の世界である。丸く削られた峰も見える。尖った峰も見える。お椀で抉られたようなカールも見える。貫通谷も見える。岩と雪だけの日本の山とはまったく違ったラップランドの氷河の景色。気温は8℃くらい。天気は快晴だが日差しは緯度の関係で強くない。東に昨日歩いてきた、ニカロクタあたりの湖と谷が見えている。数分の後、次の人が来たので山頂を後にする。下りも結構な急斜面である。平らなところまで来て、昼食にする。そうしているうちに、ロッジからの登山ツアーの一行が到着した。ヘルメットをかぶり、ハーネスでザイルに繋がれている。日本人女性の一行もガイドに連れられ到着した。

 食事後下山。ゆったりとした斜面を下り、小屋まで戻る。小屋はあまりきれいではない。急な斜面を下っていると、昨夜話した日本人男性が、奥さん?と一緒に登ってきた。言葉を交わした後、下山。谷底まで一気に降り、そこから200mの登り返し。平らなビエランバリの頂上で一休み。また急な坂を下り、カールの底に出る。この先は、花が咲いている高度である。花を見て写真を撮りながらのんびり下山。

トナカイ トナカイ


 急な坂を下り、平らな道に出たところで、トナカイが悠々と目の前を通り過ぎていった。カメラを向けても急ぐでもなく、前を横切り、斜面を登ってゆく。ここはラップランドだ、というのを実感した一瞬だった。2つの分岐点を通過し、ロッジに着いたのが5:25。9時間余の登山だった。
 その夜、ロッジにもう一泊し、翌朝、8時過ぎに出発。船着場への道を歩いていると、トナカイの角を拾った。その先には、トナカイの死骸があった。10:15の船に乗り、ニカロクタに11:45に戻る。

トナカイ 綿スゲ ロッジの資材運搬用 KEBNEKAISEロッジ
キキョウ トナカイの死骸

バスまで時間があるので、レストランで食事。「鹿肉のステーキ」とかいう、淡白な肉のステーキを食べた。その後、バスに乗り、キルナへ。そこから、列車ダイヤの関係でフィンランドにいくのはやめて、ストックホルム行きの列車に乗った。

ニカロクタのゲート ニカロクタ 鹿肉のステーキ

地図 
 LANTMATERIETS FJALLLARTA BD6 ABISKO-KEBNEKAISE-NARVIK
     LANTMATERIET 100SE  ISBN 91-588-9404-X
 
 Hogfjallskartan KEBNEKAISE
     KARTFORLAGET 99SEK  ISBN 91-588-4466-X
     2万分の一地形図
通貨
 SEK スウェーデンクローネ 当時のレート 1SEK=14.7円


「スカンジナビアの山を歩く」へ戻る   「ガルホッピゲンに登る」に進む    HOME PAGEへ戻る