アビスコ国立公園クングスレーデンを歩く


 スウェーデン北部にあるアビスコ(Abisko)国立公園は、ラップランド地方にある。大陸氷河が作り出した地形の美しい公園である。この国立公園の中に、Kungsleden(クングスレーデン・王様の道)という、ハイキングコースがある。この道は、北はこのアビスコから始まり、1000kmに及ぶ道だという。同国の最高峰ケブネカイセ山(Kebnekaise、チェブネカイセというのが現地の発音)の麓まででも100kmを1週間かけて歩く道である。今回は、これを全部歩くことは日程の都合で無理なので、その雰囲気だけでもと、1日分歩き、翌日戻ってくることにした。


 その始まりのアビスコは、スウェーデンのキルナとノルウェーのナルビクを結ぶ鉄道の途中に位置する。ここに、STF(SVENSKA TURISTFORENINGEN=Swedish Tourist Association スウェーデン旅行者協会?)のAbisko Turiststasionという、山岳ロッジがある。日本の山小屋というより、「山岳ホテル」というほうが近い。ノルウェーのナルビクから入り、ここに泊まり、地図その他の情報を得た。ロッジは、シャワーつきのシングルルームで3食付で955SEK(内夕食210SEK)。食事はすべて食べたいものを食べたいだけ、というBuffe形式であった。その日は鮭のステーキ、ジャガイモ、サラダ、コーヒー、ケーキなどが出ていた。売店では、地図や登山道具のほか、食料も売っていたので、地図とガスボンベ、クノールの即席パスタと「出前一丁」ラーメン(DEMAE RAMEN)を購入した。このロッジから南東に、「ラッポルテン」という、ラップ人たちがここを通ってきたといわれた、氷河の貫通谷がある。あいにくと雲が低くたれているので、一番上は見えないが、特徴ある丸く抉ったような地形が見える。
 翌朝、朝食時にランチパッケージをもらった。リンゴやお菓子、行動食ジュースなどが入った袋に、自分でサンドイッチをつくって詰めていく方式である。荷造りをして、出発。今日の行程は、アビスコヤウレ(湖) にあるロッジまでの14kmである。


 アビスコステーションを出ると、Kungsledenの入り口のゲートをくぐりアビスコ川に沿っての道になる。といっても、この日のゴールのロッジとは、標高差にして100mしかない「平らな」道である。道はよく踏まれていて迷うことはない。途中、アビスコ東駅からの道を合流し、キャンプ場への分岐点を通り、川にかかる橋を2回渡ると、右手の川幅が広くなっていき、ついには湖の一部となっていく。前方には雪を残した山が雲の中に見え隠れしている。やがて対岸に建物が見えてくる。それが本日のゴールのアビスコヤウレのツーリストヒュッテである。橋を渡り建物に近づくと、STFの旗が高々と掲げられている。アビスコを出て4時間。午後1時であった。天気は悪く、今にも雨が降りそう。気温は8℃。

 着くと、おばさんから突然「Welcome Abiskojaure!寒いでしょう」と話しかけられ、一瞬びっくりするが、この人がここの管理人なのであった。「スウェーデンの山小屋のことは何も知らないから教えてほしい」と言うとその管理人さんはヒュッテのベッドルームに連れて行き「窓側の一番いいところを使 え」といい、次にキッチンのことを教えてくれる。ここには、プロパンガスのレンジやなべ、やかん、包丁や皿、フォークにいたるまで何でもそろっている。水は、バケツで湖の水汲み場から取ってくること、シンクで洗い物をすること、汚水は別のバケツに入れ汚水捨て場に捨てること、などを説明してくれ、宿泊者リストに記入するよう言われた。次に管理棟に行き、宿泊料の説明。ここで、日本のユースホステル会員証を見せると、STFのメンバーと同じ割引が受けられることを知った。宿泊料は255SEK。150SEKの割引であった。売店では、食料のほか、ビールやジュースなども売っているので、食料を調達しながら、旅を続けることができる。早いせいかあまり人はいない。夕方になると、ヒュッテの客やテントを持ったハイカーたちが続々と到達。夜中まで明るいので夕方という気がしないのだが、6:45にサンドイッチの残りとクノールのインスタントのパスタで食事。8時ころまでにほとんどのグループは食事を終え、寝ていく。外に出ると、まだまだ明るい。気温は12℃。持ってきたワインを飲んでベッドに入り、読書していたが、そのうち寝てしまった。外が明るいのではっとしたが、夜中の12時。結局一日中暗くならないのだ、この時期は。何となき体の調子がおかしいのはこのせいかも知れない。


 翌日は5:30に起きたが、ほとんどみんな寝ている。「出前一丁」をつくって食べてから、6:10アビスコに向け出発。途中雷鳥の群れに会う。オスは鶏冠が赤いのですぐわかる。少し体の小さい子どもの2羽を連れて母親が歩いていった。昨日来た道を戻って行く。旅の荷物を全部担いでいるので結構な重さだし、長時間歩けるザックではないので疲れ方がひどい。いらない荷物をアビスコに置いて、1日に歩く距離を伸ばすと、ケブネセカイセ・ロッジにあと3日で着くのだが、そこで山に登った後キルナに出、アビスコに荷物を取りに戻る手もあったが、今回は見合わせた。時間に余裕があれば、この「王様の道」を歩き通してみたいものである。
 4時間後、アビスコのゲートに戻り、11時半発のバスで、ケブネカイセの最も近い入り口、キルナの町に出ることとなった。

地図 
 LANTMATERIETS FJALLLARTA BD6 ABISKO-KEBNEKAISE-NARVIK
     LANTMATERIET 100SE  ISBN 91-588-9404-X
     10万分の一地形図

通貨
 SEK スウェーデンクローネ 当時のレート 1SEK=14.7円


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