ネパール・ランタン谷を歩く


 ネパールの首都カトマンズの北方、チベットとの国境にあるランタン谷、ここはイギリス人の登山家・ティルマンが訪れ、「世界で最も美しい谷のひとつ」とほめたたえたという。
 この谷を2012年春訪れた。山と谷、岩と雪、氷河と渓谷、 数々の花、そして人。まさに、その通りであった。

5月22日(火)カトマンズへ

 日本中が金環日食に沸いた日の夜、自宅を出て、22日午前1時発のバンコク行きに搭乗。羽田空港からのこの便によって、翌日の昼にカトマンズに入れることになり、便利がよい。空港ではあっという間に手続きが終わり、0:30頃から搭乗開始。客は半分程度。定刻発。2時頃ウィスキーをもらい、うとうとしたと思ったら朝食、6時間半の夜行便は早すぎて寝る暇もない。

 4時半にバンコクに到着。10時15分の乗り継ぎ便間まで寝てしまうわけにもいかず、うとうとしながら過ごす。TG319便は12時過ぎにカトマンズ着。
 空港で、25$払いビザをとって荷物を受け取り外に出ると様子が違う。騒音がない。その日はバンダだった。タクシー乗り場はいつもと違っている。シャトルバスを待つのもつらいので、15$払ってタクシーで予約していたホテルホーリーヒマラヤに。荷物をおいてシャワーを使い、一休み。午後は、ATMでお金をおろし、明日からのランタンツアーをアレンジしてもらわなければならない。

 ATMに行くと、どれもこれも動いていない。
 ホテルに戻って聞いてみると、5時になれば店も開くし、ATMも動くとのこと。「おつきあいゼネスト」のような感じ。

 トレッキングのアレンジに、前回お世話になったacme guest houseのカルマシェルパを訪ねてみたら、1時間ほどで戻ってくるとのこと。街をぶらぶらするが、店は閉まっている。騒音もない。不思議なカトマンズの街の様子。

 時間がたち、ゲストハウスに戻ってみると、帰宅していた。早速、今回の手配の話。7日間でランタン谷、ガイド、荷物は持ってもらう、ロッジに泊まり、自分の費用は払う、公園使用料とバス代は込み。ということで手配してもらった。ただし、明日バンダだと、バスが動かない。そのときは別なルートを行くことにする。費用2万2千ルピーはATM再開後の6時に会って払うことにして、分かれた。

 ATMが動くまで待ち、4万5千ルピー下ろして、6時にシェルパと会って契約と支払い。明日朝5時45分にホテル前で会うことにする。バンダなら、ランタンにいけない!(実は、2万ルピーほど出せば、ジープをチャーターできたのだが、後で知った話)
夕食をとり、寝る。

5月23日(水)登山口シャブルベシ(Shyabru Besi)へ

 朝5時に起き準備。カルマシェルパが若者を連れて現れた。今回のガイド、ゲンブ・シェルパである。23才大学で経営学を勉強中ガイド歴2年。今日はバンダはなし。ランタンに行く、とのこと。よかった。

 チェックアウトの後、タクシーでニューバスパルクへ。予約表をもらいバスを探し、乗り込むが、とても一人ではできそうもない。出発まで何度か座席の移動。

 7時15分、ようやく出発。ぼろぼろのバスで、座席も窮屈。リクライニングどころかシートも薄いクッションがあるのみ。これから7時間の苦難の始まりだったのだ。このバスは、途中、スリトリ、ドンジェを経由して、登山口のシャブルベシまで走るが、途中舗装道路は半分強か?未舗装どころか、日本だったら乗用車は走らないようなダートというか、オフロードというか、そんな道を走る。ガードレールもなく、片側は数百mの崖という道を走る。スリル満点、とても寝てられないようなバスの旅。しかも、ハイキング用の靴を履いているのでシートが低く、腰が痛くなる。

 途中10時過ぎに昼食といわれるが、食欲なし、リンゴを買って食べた。1時過ぎ、ツーリストポイントでチェック。武装した軍人がバスに乗り込み、いろいろ見て回っている。ツーリストの公園入園許可書をチェック、終了すると、ゲートが開いて出発。2時過ぎ、ようやく、終点のシャブルベシについた。バス停すぐの「Trekkers Inn」というロッジに泊まる。4階の眺めのいい部屋。シャワートイレ付き。

 この村には、銀行のATMがあった。夕飯はチョーメンとエベレストビール。8時過ぎに寝てしまう。それにしても、大変なバス旅だった。帰りは何とかしなければ。
 

5月24日(木)標高2400mのラマホテル(Lama Hotel)まで

 6:30散歩に出かける。クッキーを購入。40Rs。7時朝食。ジャムトーストとミルクティー。7:30に出発。宿への支払いはルーム500Rs、2食で730Rsの1230Rs。  今日の予定は、標高1400mのここシャブルベシから標高2400のラマホテルまでの標高差1000m。

 シャブルベシを出て、橋を渡る前にツーリストチェック。ここを左に行くと、チベット国境に着く。2つ橋を渡り、ランタンコーラ(谷)の左岸を進む。地図には、しばらく右岸を進む道が出ているが、途中の橋が壊れているので、はじめから左岸。

 このコースは、高巻きの連続で急な登りと下りを繰り返しながら、標高さ1000m上るので、実際には1500m以上登らなければならない。ゲンブシェルパは快速で飛ばすが、こちらは4ヶ月の船旅のツケか、軽い荷物なのに久々の本格的な山登りで、足が出ない。ドミンの茶店からはさらに厳しく、50分ごとに10分休み。ようやく11時過ぎにバンブーロッジに到着。昼食にボイルドポテトとミルクティーをたのんで、待っているうちに、ウトウトと寝てしまった。食べ終わってまたウトウトと昼寝。1時間ほど寝ると少しよくなった。

 少し歩くと、右岸に橋でわたる。茶店をすぎると、リムチェまで急な登りの連続になる。ようやく急な登りが終わり茶店に着くと、そこから一頑張りで、今日の宿のあるリマホテルに着く。3時ちょうど。昼食を抜くと6時間半で登ったことになる。途中で、ジュースなど買い求めてのつらいつらい登りであった。

 泊まったロッジはFriendly Guest House。見晴らしのよい部屋に案内されて、荷物整理。ここには、太陽熱温水機を使ったシャワーがある。疲れた後には、快適であった。シャワーの後夕食まで寝てしまった。よっぽど疲れていたということ。

 6時夕食。ビールとツナトマトピザ。泊まり客は1人かと思っていたら、食べ終わる頃あわただしくなり、7時半頃デンマーク人男女の6人組が下ってきた。中には、相当足にきている人も。

 8時にはベッドに行き、途中何度か目を覚ましながらも、翌朝6時までなんと10時間も寝てしまった。

5月25日(金)標高3400mランタン村(Langtang)まで

 6時半にミルクティーとチャパティで朝食。宿への支払い1250Rs 。7時半出発。今日の行程は、地図をみると、2400mのラマホテルから3500mのランタン村までの標高差1100mの登り。ただ、昨日のような登り下りはないようだ。

 しばらく歩くと樹間に白い峰が見えてくる。ランタンU峰。9時30分にタムナチョーク。10時30分にチョータタベラ。ここが標高3000m、ここまでは多少登り下りもあった。ここからは傾斜も緩くなる。

 10:40すぐにアーミーポスト。パーミッションの提示とノートへの記入、サイン。11:50にチャンシャップで昼食。ここでは、プレーンマカロニに日本から持参したバジルソースを絡めて食べる。それとミルクティー。

 13時出発。平坦な道になる。14:30またチェックポイント。14:40ついにランタン村。ここにはロッジがたくさん並んでいる。インターネット可と言うのもある。太陽電池パネルと大きなパラボラアンテナがつけられている。こんな山奥までインターネットは来ているのだ。ランタンリルンの姿も見える。泊まるロッジは、シャングリラロッジ。景色のよい部屋に入る。

 その後、ポストオフィスを訪ねて村内散策。しかしポストオフィスは閉まっている。チーズファクトリーも閉まっている。ということで一周しただけ。戻ってシャワーを浴び、少し横になると夕食。ベジタブルパスタとビール。オランダ人夫妻が同宿。SONYのデジカメの電池が切れたが充電器はないかという。残念ながら、打つ手なし。いつも思うのだが、バッテリーの形状をなぜ何種類かに統一できないのであろうか。または、USB経由で充電できるようにすると、かなり融通が利くのに・・・。

 8時に寝てしまう。今日は、昨日に比べたら、楽な一日であった。


5月26日(土)標高3870mキャンジンゴンパ(Kyanjin Gumba)まで

 今日は、ランタン(3400m)から、もっとも奥の集落キャンジンゴンパ(3870m)までの行程。標高差500mで、距離も近いが、高度が高く、空気が薄い場所を歩くので、油断すると高山病の症状が出てしまう。

 朝、気温13℃天気は薄曇り、朝霧が出た。
 朝食はチャパティとミルクティーという「定番」宿への支払い1330Rs。絵はがきを3枚買って450Rs。

 8時出発。このとき、気圧は660hPaで、地上の3分の2しかない。ゆったりとした登り坂で歩きやすい。ただ、高度が高いので、焦ってはいけない。花の写真を撮ろうとしゃがみ込んで撮影し、立ち上がると、一瞬立ちくらみがする。気のせいかと思ったがこれが繰り返される。考えてみると、シャッターを押す瞬間は、呼吸を止めている。そこからすぐに立ち上がると、心臓から脳に酸素が供給されず立ちくらみになってしまうのではないだろうか。写真を撮った後は、数回呼吸し、ゆっくりと立ち上がるようにするとこの立ちくらみはなくなった。なんせ富士山より高いところに来ている。

 10:30、橋を渡る。このまま左へ行くと、1軒のロッジを経てランタンリルンのベースキャンプ。橋を渡りしばらく進む。10:50高台に登ると、そこからキャンジンゴンパの集落が見えている。ネパール側最後の集落。山の反対側はチベットである。
 周りは、ランタンリルンが見え隠れ、右側には雪を戴いた稜線が見える。正面にあるどっしりとした山が白いガンチェンポの立派な姿だがぼんやりしている。左のキャンジンリは頂上まで見える。

 11:00Hotel Super View5号室に入る。2方向に窓のある部屋である。12時にランチ。プレーンマカロニに日本から持参のキノコソースをからめて食べる。

 午後は近くの草原を散歩。背の低いアヤメの花がたくさん咲いている。雲が出て、山は見えなくなってくる。

 夕食は、ベジタブルパスタとミルクティー。同宿は昨日のオランダ人夫妻と若いイギリス人カップルの5人。明日の予定を話している。氷河まで一緒に行こうと誘われたが、明日下山すると言うと、もったいないといわれた。その通りで、もう一日滞在するとよかったのだが、やむを得ない。

 谷風に乗ってガスが上がってきて、全く見えなくなった。明日は晴れるか?
早めに寝た。


5月27日(日)すばらしい景色

 朝4時過ぎに明るくなるが、ガスの中。ベッドの中から景色を見ていると風が吹きガスが切れかかる。6時頃晴れてきたので、ダウンを着て外に出る。結構寒い。昨日行った草原に登ると、すごい!ランタンリルンが目の前に見える。美しい白いアーチの後ろには青空。そして東から南へは、ガンチェンポから続くカンジャラヒマールの山々。足下には紫のアヤメ。1時間ほど写真を撮りながら景色を眺めていた。

 7時から朝食。7:30に出発。宿代は1700Rs。いい天気で、周りの山々が美しい。来た甲斐があったというものだ。もう一日長く取ればよかったとつくづく後悔。ランタンU峰、ガンチェンポが美しい姿を見せている。「世界でもっとも美しい谷の一つ」という言葉がよくわかる。もう少し高度が高くなると、山は美しいが、緑が全くなくなる「死の世界」になる。ここは、緑と、人の息吹を感じながら白い山々を眺めることができる場所なのだ。

 名残を惜しみながら、8:40休憩。さらに下って、9:10ランタン村。郵便局に行ってみると、閉まっている。一体いつ営業しているのだ、ここは。9:20アーミーチェックポイント。9:30、10:30と休みながら下り、途中でティータイム。高度が低くなっているのでどんどん楽になっていく。11:20昼食。プレーンピザとミルクティー。ここのピザはおいしい。

2:05リマホテル到着。下山祝いにビールで乾杯。夕方までごろごろと過ごす。夕食時、オランダ人女子学生3人と話す。

5月28日(月)登山口に帰る

 快晴である。今日は、登山口シャブルベジまで下山。この道は、登ってくるときに書いたように、登り返しがたくさんある道で、下りといえども、結構大変なところ。
 宿代1670Rsを支払い、7:25出発。リムチェから、一挙に350m下り川のそばの茶店で一休み。ここで織り紐を500Rsで購入。本流を渡り、下ってゆく。9:55バンブーロッジ。5日前が嘘のようだ。快調。

 10時に昼食。その後、登り返しをしながら下山を続ける。暑くなってきた。ようやく橋を渡り、12:50シャブルベシに戻ってきた。来たときと同じ宿に入り、シャワーを浴びて村の散歩。

 かくして、ランタン谷のトレッキングは終わった。

5月29日(火)カトマンズへ

 今日はバスでカトマンズまで。もしバンダなら、ジープを使って帰ろうという話はしていたのだが、バスは動いている。

 来るときのバスより立派な車両で、クッションもそれなりに効いているし、足下も広い。とはいえ、カトマンズまでの7時間は、つらい時間だ。

 7時5分に出たバスは、午後2時35分にカトマンズに到着。タクシーで、予約していた宿Hotel Family Homeに入り、終了。ガイドには2000Rsのチップとデジカメをプレゼントした。

 翌日、カトマンズ空港からバンコク経由で羽田に向かい、31日早朝、帰国した。あっという間の1週間、名残惜しい谷の景色であった。

地図

Trekking Map LANGTANG : Nepal Map Publisher ISBN 978-9937-556-03-3 500Rs.

ランタンで見た花

 ランタン谷は、花の名所でもある。5月末であるが、たくさんの花が咲き、美しかった。

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